『君のためなら千回でも』:The kyte runner
ただ今上映中の『君のためなら千回でも』。 いつもは終了後少し間をおいてからゆっくりと劇場を後にされるお客様たちが、本作は終了後足早に劇場をでられます。人目につかぬようそっと涙を拭われるためで、劇場スタッフとしては嬉しい光景です。階段を下りる際、頭上に掲げた凧がまた違って見えたらなお嬉しいです。
さて。
本作は、世界で800万部も売り上げたベストセラーが原作で、アフガニスタンの激動期1970年代から現代に至まで、時代や運命に翻弄されながら成長した少年たちの友情と贖罪の物語。これを手がけたのが、『チョコレート』『ネバーランド』のマーク・フォースター。人間の弱さを知り得た上で、人の心根の強さを信じている監督の作家性が光ります。
資産家の息子アミールと、彼の家の使用人の息子ハッサン。身分の差が明確にされながらも、彼らはそれぞれに互いを敬い想いあう親友で彼らの強い絆を象徴するのがタイトルです。原題は“The Kyte Runner”。凧追いという意味です。凧あげをするときにはアミールが上げた凧の糸を流し撒くのはハッサンの役割で、他の凧と競い合い糸を切って相手の凧を落とします。それを戦利品として追いかけて拾うのが Kite Runnner。ハッサンはとても優秀な凧追いであり、アミールの為なら千回だって凧を追うよと叫びます。原題と邦題二つで、彼らの関係性をうまく抽出しているようです。
それほどの絆で結ばれている2人にもある出来事が降り掛かってしまい、アミールは保身の為にハッサンを裏切ってしまいます。時を同じくしてアフガンのソ連侵攻が始まり、そのままアミールはアメリカへ亡命。
一度友を自らの手で手放し失ったアミールが友情と自分の中の誇りを取り戻す壮大な物語がここにはあります。そこにはアフガニスタンという国のさまざまな事象の背景がきっちりと浮かび上がってきます。社会的・政治的混乱、差別問題、内戦や荒廃など、さまざまな社会問題がこの物語の骨格を作り、そんな厳しい現実の中で、人間個人の尊厳、誇り、親子の愛情などが確実に息づいている事を知ります。それは流れて来るニュースだけでは知り得ない人間の生の営みなのだと思いました。
そして何より、犯してしまった罪を悔い改めるのに遅すぎる事はないことを、この物語が伝えてくれます。30年分の想いを込めてアミールが祖国へ足を踏み入れる瞬間、自分も同じように、置き去りにして来た過去へ向き合う旅路へ旅立つようでした。
涙なくしては語れない珠玉の感動作、どうぞお見逃しなく。
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