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全然大丈夫じゃない世の中で

Zenzenok  『グループ魂のでんきまむし』という幻の作品がある。バカバカしさとハチャメチャを極めた映画であった。大人計画の劇中映像を制作していた藤田秀幸監督の作品で、主演があのグループ魂。上映当時は大人計画もグループ魂も、ファンの間では絶対的なものになりつつあったけれど、一般的にはまだまだ知られていなかった頃だったと思う。幻といったのにはワケがある。この映画にはグループ魂が実際に「笑点」に出演したときの映像が無断で使用されているためにDVD化できないのだとか。つまり、いろんな意味でハチャメチャな作品だったということだ。『グループ魂のでんきまむし』は2000年の第14回高崎映画祭で上映された。当時、藤田秀幸監督と出演されていた井口昇さんに舞台挨拶をいただき、市内のおでん屋でご一緒させていただいたことを覚えている。井口昇さんは『人のセックスを笑うな』の井口奈己監督とイメージフォーラムの同期でもある。だから『犬猫』にも出演されている。4年後、井口昇さんは監督として『恋する幼虫』という、これまた奇怪な作品を荒川良々主演で撮ることになる。
 あれから8年。藤田秀幸監督は藤田容介と名を改め、井口昇監督に続く荒川良々主演作品を世に送り出す。それが現在上映中の『全然大丈夫』だ。僕はまず『全然大丈夫』というこのタイトルに惹かれた。「全然大丈夫」って必要な言葉だよなあ、としみじみ思った。世の中が多様化しすぎたことから沸き起こる不安感ってないだろうか?根拠なんてなくたっていいから、「全然大丈夫だよ」と誰かに声をかけてもらうことを今を生きる僕らはどこかで必要としてはいないか。この映画を彩るのはそんな多様化の波にノリにノッてしまった、一般社会の常識からズレた人たちばかりだ。ホームレス、オカルトマニアの造園屋、新品のティッシュボックスを開けられない程の不器用人間、鬱の古本屋店主、顔に大きな痣のある陶器修復士・・・。多様化といってもどちらかといえば社会から嘲笑されがちな人たち。劇中で荒川良々演じる照男がしばしば吐く「上から目線」というセリフにも象徴されるが、スクリーンの向こうには多様化された格差社会をいくらかデフォルメした世界が広がっている。そこでこの"全然大丈夫"というタイトルの意味を考えたとき、その意味の深さに気づく。この作品は社会に馴染めず、いまにもドロップアウトしそうなすべての大人たちに向けた愛のメッセージだ。一本芯の通った面白可笑しさとバカバカしさが作品を貫いていて、しかしながら愛の押し売りにはなっていないし、説教じみてもいない。そこがまたいい。社会がいつでも普通じゃないことや異質なものを受け入れられる器であってくれるといい。なんだか『靖国』上映問題にも繋がっていきそうな話である。
 こういう作品だもの、決して傑作とは言うまい。僕にとっては、冬の寒い日に見知らぬ誰かから黙ってそっと渡されたカイロのような、そんな偶然の拾い物のような、「ほっこりとした」プレゼントであった。

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