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『ぐるりのこと。』 その2

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 『ぐるりのこと。』を観たとき、なぜか『ジョゼと虎と魚たち』を観たときのことが、ふと頭に浮かんだ。主題歌「Peruna」の雰囲気とその本編との絡み具合が、『ジョゼと虎と魚たち』の「ハイウェイ」のそれとよく似ていたからだろうか?、と思ったのだがそうではなかった。僕が『ジョゼと虎と魚たち』を観たのは、忘れもしない4年半前の2003年12月30日だ。僕はこの日、渋谷のシネクイントで『ジョゼと虎と魚たち』を観ようと都内に向かったのだが、この日の上京にはもうひとつの"お目当て"があった。それは、その年の10月、六本木ヒルズにオープンした森美術館の開館記念展・「ハピネス展」を観ることだった。さらにその「ハピネス展」を訪れた目的はというと、近年再評価が進んでいる18世紀の画家・伊藤若冲の「鳥獣草木図屏風」(写真)を観るためだった。「升目描き」と呼ばれる画法で描かれたこの作品は膨大な数のマス目(一辺約1cm)で構成されており、その"ドット"ひとつひとつに色が塗られている。僕はその何万という升目の前で、その集合体である"モザイク画"から発せられる動物たちの生命力のたぎりにただもう圧倒され、そこに立ちすくしてしまった。こんな絵が200年以上も前の日本で描かれたとは・・・。近年は人が人の生命力を疑う時代だ。個人も社会も、"病む"ということにあまりにも慣れすぎている。僕はその若冲の仕事の前で、そんな現代社会の負の歯車の回転が"ぴたっ"と止まったような感覚を覚えたのだった。
 『ぐるりのこと。』のカナオと翔子は、学生時代に日本画を専攻したふたりである。予告編をご覧になった方はお気づきかと思うが、その予告編の最後にふたりがどこかの広間で仰向けに寝そべるシーンがある。そんなふたりが寝ころびながら、そして笑いながら見つめているのは、日本画で描かれた"天井画"。そこには色とりどりの草花が描かれている。予告編はその"天井画"を映して終わっている。
 芸術のちからは時を超える。先人たちの仕事の中に、こんな世の中の生き抜いていくためのヒントが隠されているかもしれない。伊藤若冲の仕事は『ぐるりのこと。』で、その"天井画"ではないところで登場してくるのだが、それが作品内でどう扱われているか、是非そこのところを見ていただきたい。人の生命力は失われた訳じゃない。くすぶりながら個々のハートに眠っているだけだ。僕は『ぐるりのこと。』からそんなことを思い、歯車が軋みながら停止した『2003年12月30日のこと。』を思い出したのだった。

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