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眠り姫:幻が息づく時

 

Photo_3 七里圭監督を高崎にお呼びしたのが4年前、第18回高崎映画祭の若手監督特集で『のんきな姉さん』を上映したときだ。姉と弟の美しく、幻想的な愛の物語。どこか曖昧さを美徳とした風合いにまとめられた映画で、独特の映像センスと音楽の使い方からしても他のものとは一線を画すアーティスティックな作品とも言えた。映画の端々に、演劇的な空間の絵づくりや、美術に相当こだわっているとみえる<造り込み>が見えて、一種独特な現実制と異空間がまじりあっている。こんな映画を撮る方はどんな芸術肌の神経質そうな人が現れるかと思いきや、監督自身はとても柔らかな物腰の方。用意した控え室で一言「すいません、皆さんのところにいてもいいですか」と、わざわざ私たちスタッフがわいわいがやがやといるところの片隅に座り、にこにことその様子を眺めていたのが印象的だった。
 映画の不思議な魅力も然ることながら、七里監督自体に惚れ込んでしまった私は、その後の作品を楽しみにしていた。正直、商業的な映画に進出する事はないだろうと思っていたので、次回作がいつになるのだろうという気もしていた。それがほどなく、2005年5月に一通のお便りが届いた。『のんきな姉さん』の公開時、山本直樹の小部屋展というのを開催したのだけれど、そのイベントのために製作した映像作品を、映画にした、というのだ。この『眠り姫』は、室内楽団の生演奏付きで2日間だけ開催するという。ご連絡をいただいて、もう飛び上がる程嬉しかった。絶対行くぞ!とおもったものの、当時の私は仕事をしていたし、どうにもこうにも空けられなくて断念。もう二度とこの作品は見られないのだろうと、思っていた。室内楽団の生演奏付きなんて、きっと七里色一杯の映画に違いない、あの、幻想的でかみあうような噛み合ないような音楽の使い方…、でも私は好きなのだあの世界が。328750_01_02_02
 『眠り姫』は漫画家山本直樹さんの作品が原作、そしてその原点は内田百閒の「山高帽子」。せめてもと、内田百閒なんて作家その当時の私は知らなかったが、探し求めて一気に読んだ。なんとも不思議な世界。内田百閒は夏目漱石の門下、彼自身であろう青地という教師と、同じく門下であった芥川龍之介とおぼしき同僚の教師が登場し、なにやら不可思議な会話で成り立つ物語だ。
 顔が膨らんでいますよ、伸びていますよといった会話と、活字でもってその奇妙さ自体を演出する物語、そこに潜む人間と精神への探求。これがどんな映画になるのか…。
 声だけの出演でこの物語をどのように色付けるのか、興味が膨らむばかりでも、もう観られない。いつか、いつかまた上映の機会があれば、と思っていた。そうして、3年後、劇場公開されるという知らせが。
 待ちに待った作品は、幻想と瞑想の中に呼ばれるごとく、その映像に惹き込まれ、美しさに酔いしれた。人間が生活しているはずの空間に、その姿はなくぼんやりとした存在感だけが、嘘か真かのごとく映像に落とし込まれる。青地演じるつぐみさんの低くけだるい声、同僚の教師演じる西島秀俊さんのおどけたような、飄々としたものの言い、青地と山本浩司さん演じる彼氏との噛み合ない会話…、人間の虚ろさ空虚さが漂う空気とリズム。人間は絶え間なく騒がしい世界で過ごしているはずなのに、一歩さがってしまうとその騒がしさは頭上でぽわんぽわんと揺れているだけなのかもしれない。それが、人のいない景色となって浮き上がってくるようだ。
 言葉が悪いかもしれないが、この作品に対しての感想と言えば、向き不向き、肌馴染みがいい悪い、といった表現を使った方が早いのかもしれず、そういう意味でも私は間違いなく前者だったわけですが。
 作家性という色合いの作品のなかでも、どこかひっそりとした世界を感じさせる、自分色の映画の撮り方。公道をそれても我が道を行く、というよりは、公道の1m程離れた舗装されていない小道を、ゆっくりと、平行して進んでいく。そんな感じ。七里監督にしか出来ないわざ。
 とにもかくにも。
 こんな素敵な、でもおそらく大々的に世にはばかる事のないこの映画を、シネマテークたかさきで、上映出来る事が私は嬉しい。
 皆の反対を受けてでも(受けてないけど、)上映したかった映画だ。
是非多くの方にご覧頂きたい。すべてはまずは、観てから、ということで。

 初日14時45分の回、上映終了後には七里監督にお越しいただいて、舞台挨拶をして頂きます!とてもとても、穏やかな朴訥とした監督にまたお会い出来る事が今からとても、楽しみです。是非皆さん、七里監督に会いに来てください。お待ちしております。

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