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『ぐるりのこと。』 その3

Kataokareiko_2  「家庭」と「法廷」、韻を踏みながらも全くの別物に映るこの2つの空間が『ぐるりのこと。』の主な舞台だ。この2つの空間はねじれながらも、作品中に登場する2人の女優よって、僕らに興味深いつながりを見せつける。その女優のひとりは、まず家庭の側から、主演の木村多江。そしてもうひとりは、法廷の側から、橋口作品の常連・片岡礼子だ。
 とは言っても、片岡礼子が登場したのは、ものの1~2分だっただろうか。とても僅かな時間だった。そんな僅かな時間の中で、彼女は凄まじい存在感を僕らに見せつける。彼女が演じたのは、1999年に実際に起こった音羽幼女殺人事件の被告人の女だ。長男同士が同じ幼稚園に通う、当時彼女と友人関係にあった女性の2歳の次女を殺害した、あの事件の女である。映画の中で片岡礼子演じる女は法廷内でひたすらに謝罪の言葉を述べ、涙を流し続けている。
 それにしても、『二十才の微熱』『ハッシュ!』と過去の橋口作品でメインキャストを張ってきた女優に、橋口監督はなぜ、こんな"チョイ役"を用意したのか。そこには、橋口亮輔のミューズ・片岡礼子が演じなくてはならない理由があると考えるのが自然だろう。9年前の事件発生当時、テレビの報道はこぞって、これは「お受験」が引き起こした犯罪だと騒ぎ立てた。被害者の子が「お受験」に合格し、被告人の子が不合格となったことよる嫉妬心から引き起こされた事件との見解が先行したが、その一方で、地域住民や幼稚園の母親グループ、そして家族からも孤立した被告人が迷い込んだ孤独の世界にも注目が寄せられていった。この孤独の世界は、不器用ながらも決して離れることなく歩みを続けるカナオと翔子の夫婦が築く世界と表裏一体の関係を結ぶ。つまり、木村多江と片岡礼子は同じメビウスの輪の。その帯の上に立つ女性を演じていることになる。
 昨日、久しぶりに『二十才の微熱』を観た(残念ながらビデオでだったが)。橋口監督のデビュー作である本作は、片岡礼子の映画デビュー作でもある。1992年公開のこの作品で、片岡礼子はゲイバーで体を売る後輩に心を寄せる女子大生を演じている。セリフ回しも顔つきも、そのすべてが女優と呼ぶには早過ぎたけれども、若い俳優たちのそんな未熟な部分あってこその、この見事な青春映画でもあった。16年の後、完全な女優となった彼女は、幼子を殺した女の役でスクリーンに現れ、一瞬で観客の心を凍りつかせる程の芝居を見せつける。まるでそれが法廷ドキュメンタリーかと思わせる程の。
 法定画家のカナオは「法廷」で、そんな片岡らが演じる犯罪者たちの横顔を見つめつつ、「家庭」に戻れば妻・翔子を静かに支え続けている。「庭」にあって「廷」に無い、「广」の何たるかを『ぐるりのこと。』は、"ぐっ"と僕らに突きつけてくる。そして「广」を見失った女の目からこぼれた涙が、僕らとカナオの頭上に降り注ぐ。カナオはそこで何を思っただろうか。短いながらも、片岡礼子のそんな圧巻の場面は、いよいよ今日からスタートとなる『ぐるりのこと。』の白眉のひとつと言えるだろう。

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