『黄昏』で名高いマーク・ライデル監督の1979年の作品、『ローズ』。ご覧になった方もきっと多いことでしょう。『ローズ』は薬物中毒が原因で帰らぬ人となったロックシンガー、ジャニス・ジョップリンをモデルとした女性・ローズの生き様を描いた作品で、ローズ役を演じたベット・ミドラーのスクリーンデビュー作でした。男と仕事と薬物の囚われの身と化したローズは、ラストシーンでそれまで帰りたくても帰ることが出来なかった念願の地・故郷フロリダのライブ会場に辿り着きます。大歓声の中、1曲を歌い終えたローズは最後の曲を、最後の最後のちからを振り絞って声にすると、ステージ上にばさりと崩れ落ちます。ロックシンガーの命の灯が消えようとしているそのとき、動かぬ彼女ををやさしく包み込むかのように、あの映画音楽史に残る名曲「THE ROSE」が流れ出すのです。この曲は夭折したシンガーの人生の暗闇を照らす光。それは死に向かう彼女を送るレクイエムではなく、彼女の"生"を照らし出す"光"であったと僕は勝手に解釈しています。
『輝ける女たち』は僕にとって、"今のところの"今年一番の愛すべき作品となりました。この作品では、魅力あふれる女優たちによって様々な名曲が歌われています。歌手役を演じるエマニュエル・ベアールは劇中で歌うことについて、"賭けだった"とコメントしています。歌うことについてはわずかな経験しかなかった彼女でしたが、見事、その賭けに勝ったといえるでしょう。「THE ROSE」はこのフランス映画の中で「LA ROSE」となり、物語のクライマックスで、とある女優によって歌われます(あえて女優名は伏せます)。そしてこの曲をバックに、互いの気持ちを伝えたくても伝えられなかった家族ひとりひとりの積年の想いが、ニースにあるキャバレー"青いオウム"のステージと客席で交錯するのです。言葉ではなく、歌を通して、そしてまなざしを交わすことで。
「LA ROSE」が"生の賛歌"として、これからを生きる家族のために歌われたことが妙に嬉しかったのです。これで「LA ROSE」はジャニスとローズの死のイメージを振り切り、生きるための曲として生まれ変わる機会を得ました。『輝ける女たち』という映画は、演じる女優や、観客としての僕らだけでなく、名曲の運命までをも変えたのだと、僕はこれまた勝手に解釈しています。きっとこれもまた、映画の魔力なのでしょう。